もしいま私がエントリーシートを書くとしたら
私は企業出身ということで、自分の研究室の学生はもとより、他研究室の学生からもしばしば、就職活動の相談を受けたり、エントリーシートの指導をお願いされたりします。逆に企業の人事担当の方が訪問されて、就職活動前の学生にこのようなことを伝えてほしい、ということをお願いされたりもします。
しかし私が大学に転職したのは2005年のことであり、既に長期にわたって産業界を離れています。よって私はいま、産業界の現在の指向をちゃんと押さえているわけではありません。
ましては私が就職活動をしたのは1991年、バブル景気末期の就職楽勝期であり、しかも面接は1社しか受けていません。よって、企業出身といっても就職活動に苦労した経験は全くありません。
そんな私から学生へのアドバイスが正しかったのかを確認するために、あえて、このようなタイトルで私の就職活動感を晒すことにしました。
できれば就職活動に見識のある方に、私の考えの不適切な点をご指摘頂ければ、私から指導をうける学生の為にも大変幸いでございます。
こういう文書を作ること自体が、就職活動のマニュアル化を助長していないか…ということを少しだけ悩んだのですが、ただ就職活動も一種の社会勉強だという視点で、あえて書いてみました。
この文書はお茶の水女子大学の、主に大学院理学専攻情報科学コースのM1の学生から過去数年間に受けた質問や相談の傾向を参考にして書いています。他の所属の方には参考にもならないかもしれないことをご容赦下さい。
現に、「業界や職種によってエントリーシートの設問や対策は大きく異なるようです」という情報もいただいています。
また、既にいろんな人から受けた意見を反映した文章になっていますので、首尾一貫していない面があるかもしれません。後日見直します。
エントリーシートに関しては以下のページも非常に面白いので、あわせて紹介します。
- 愛知工業大学澤野弘明先生「私が採用担当だったらこんなエントリーシートは読まない」
- (以下見つけ次第追加します…)
本文書は、現段階ではまだ書き殴りの状態です。皆さんの意見を伺いながら現在も更新中です。
志望動機
皆さんが何かで選ばれる立場にあったとき、漠然と選ばれるのと、他の人と比較した上で優れていると判断されて選ばれるのと、どちらが嬉しいでしょうか。きっと後者ではないでしょうか。
私は就職活動においても同じ心理があると信じています。つまり企業側から見ても、漠然とその企業を志望されるよりは、他業界、同業他社としっかり比較した上でその企業を志望される方がポイントが高いのでは、と想像します。よって、まずは
- なぜその業界なのか
- なぜその業界の中で、その企業なのか
ここで勤務先学科の学生の皆さんの参考までに、いまの私が情報科学の学生だったら、こんなことを考えて志望企業を絞り込んでいくのでは、ということを書いてみたいと思います。
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そしてできれば最終的には、志望企業の勤務者に話を聞いた上で志望動機を固めるのがいいと思います。
教員等が紹介できる卒業生がいたら積極的に紹介をお願いするのがいいと思います。
※私が学生の頃は、いまよりも研究室やサークルの同窓会名簿がしっかりしていて、志望企業の勤務者を容易に探して連絡をとれたものです。いまでは残念なことに、個人情報を守ることが優先されすぎて、そのような人的ネットワークが脆くなっているように思います。昨今よくいわれている就職ミスマッチの一因であるような気がしてなりません。
最後になりますが、私だったら、ウェブに載っている企業理念などを丸写しして、とってつけたように「この企業理念に感銘を受けました」みたいなことを書くのは絶対に避けると思います。
大学のレポートで「Wikipediaを写したものは0点」と言われるのと同じ結果になるかも知れません。
セールスポイント
「自分の長所はマジメなところです」と一言だけ書かれて信用する人はなかなかいないと思います。そこには一定のエビデンスが必要であると考えます。
そこで(きっと就職活動のハウツー本にも書いてあるように)具体的な経験やエピソードをもって自分の長所を実証することになるかと思うのですが、どんなことを書けばいいか迷ってしまう人もいるかと思います。
この件について
とても参考になるブログ を見つけました。このブログによると判断材料として、
「どのように行動し」「行動の結果をどのように評価したか」
このページを読んでいる大学院生の人で、上記の構成でエピソードを書くのが難しいと感じる人がいるとしたら、それは明らかに修行不足だと考えます。
大学院生の皆さんは学術論文を書く機会があるかと思いますが、学術論文の構成は大局的に見ると
一方で、これも学術研究と共通した話になりますが、何を題材にして文章を書くかもポイントになるかもしれません。つまりエピソード選びの段階から勝負は始まっているのかもしれません。
何年か前に、「企業はリーダーシップ能力やコミュニケーション能力のある学生を求めている」ということが声高に言われたことがありました。
その結果として非常に多くの就職活動生が、「サークルの部長」や「アルバイトの店長」のエピソードを書くようになったそうです。
いまとなっては、「サークルの部長」や「アルバイトの店長」の経歴は就職活動の何の役にも立たない、とまで断言する人もいます。
このことから考えられるのは、「企業は…な人を求めている」などという声を参考にしても、その頃にはもはやセールスポイントにならなくなっている、ということです。
世間の声に惑わされずに、あくまでも自分の言葉で語れるセールスポイントを、そしてできれば他の人にはないセールスポイントを特定するのがいいのではないでしょうか。
ところで、「セールスポイントには専門性や研究内容を絡めたほうがいいでしょうか」という質問をよく受けます。 これはケースバイケースで一概に言えないような気がします。少しでも絡めたほうがいいという人もいます。一方で私だったら、人物像に関する設問なので専門性に絡めなくてもいいのでは…と判断する気がします。 ただ、エントリーシート全体を見渡して、あまりにも専門性や研究内容の説明が薄いようだったら、全体のバランスをとるために研究のエピソードを選ぶ、ということも私だったら考えるかも知れません。また、志望先の企業や業種との整合性は多少は考えることが望ましいようにも思います。
この点に関して、「スキルや結果よりもプロセスで独自性を出すのがよい」というコメントをいただきました。リアリティのある解決手段を示していくのが重要なのでしょうね。ただ専門性の高い職業(研究職とかデザイナーとか)を目指すのであれば話は別で、論文を何回発表したとか展示会で入賞したという結果も同時にアピールすべきでしょう。 |
研究内容
大学院生向けのエントリーシートでは、研究内容の説明を要求されることがよくあります。私だったら絶対に避けるのは、『論文をコピペすること』です。 論文は研究成果を客観的に(第三人称的に)提案するものであり、エントリーシートは自分という人物を主観的に(第一人称的に)売り込むものです。 TPOが全く異なる文書に対して、同じ文章をそのまま転用するのは、わざわざ自分から減点を招く行為、と私は考えます。
では、どんな文章を書けば、研究内容にかこつけて(?)自分を売り込めるか、というとそこには多彩な戦術があるような気がします。私だったら例えば、こんなことを考える気がします。できる限り自分を第一人称にすることが私の戦術です。(論文だったら自分を主語にした文の多用は避けることが多いですが、エントリーシートでは全く逆だと考えます。)
- 自分はなぜその研究に意義があると考えるか。自分はなぜその研究が面白いと考えるか。
- 自分はその研究のどこが一番難しいと感じたか、どこが一番工夫したか。
- 自分は修士論文や博士論文の提出時点でのゴールをどこであると考えるか。
- 自分はその研究が完成したら世の中がどのようによくなると考えるか。
- 自分は志望企業でその研究ができるとしたらどのようにビジネスに貢献できると考えるか。
入社後の希望・目標
学生のエントリーシートにコメントをしていて、この設問は結構難しいというか、バランス感覚のある作文能力を求められている気がしました。 自分だったらどう書くかを考えてみて、以下のような多くのことを考える必要がありそうな気がしてきました。
- 志望動機、セールスポイント、研究内容などとの整合性。その目標がどのように自分の経歴と合致していて、なぜ他の学生ではなく自分が選ばれてしかるべきなのか。
- 会社の業務内容や理念との整合性。自分がその会社をちゃんと理解しているか。
- 目標設定に対する視野の広さ。個人の興味や経歴に固執し過ぎていないか。会社の中のごくごく狭い位置にとどまり過ぎていないか。ごく短期間で終わってしまうような目標になっていないか。その目標に向かうような業務でないと嫌だ、という後ろ向きな文章になっていないか。
- 好感の持てる野心度。「入社したらこういう業務をやりたい」という目先の目標だけでなく、「究極的に自分はこういう人間になりたい」という大きなビジョンがあるか。また自分を変えるだけでなく、会社をよくしたい、業界をよくしたい、社会をよくしたい、という意欲があるか。
この点に関して複数の方から、入社後の希望職種について、あまり狭くこだわらないほうがよい、というコメントを頂きました。自分がどのような職種に向いているかは働いてみないとわからない面もあり、違う職種に就いても「住めば都」という面もある、ということでしょう。上記の通り「ごくごく狭い位置にとどまりすぎていないか」と注意するのが望ましいですね。 |
その他の設問
学生から見せてもらったエントリーシートには、その他にもさまざまな設問がありました。 なぜその設問があるのか、意図を汲み取るのに難しい場合もあります。 ただ、そこにはきっと意図があるのだと思います。 それを汲み取る努力をした上で書くことを勧めます。(ここで具体例を書きたいのですが後日にさせて下さい。)
いずれにしてもエントリーシートを書く際に私だったら、設問の意図を汲み取り、必要な企業情報を調べ、どんな題材を各設問への回答に使うかを選び、エントリーシート全体でどれくらいバランスよく自分を売り込めているかを眺めて…という工程を踏んで書きたいと思います。 もし本当にそうするとしたら、エントリーシートを書く作業は1社ごとにそれなりの時間を要すると思います。
ある学生がセミナーで「エントリーシートを100社に出せ」とアドバイスされたそうですが、個人的にはここに社会的な問題を感じます。全ての学生がエントリーシートを100社ずつ出したら、各企業とも内定倍率が高くなりすぎて、かえって企業にマッチした学生を選ぶ精度が下がると考えます。結局は「どこでもいいからエントリーしろ」という姿勢が学生と企業のミスマッチにつながるのではないでしょうか。
この点に関して、「視野を拡げるために多くの企業にエントリーするのは好ましいことだ」という意見を頂きました。そういう境遇の学生もいるかもしれないことは認めますが、しかし依然として自分の勤務先学科にはあまり関係なさそうです。理工系の学生(特に大学院生)は研究の傍らでの就職活動になるので本質的に時間が少ないですし、さらに勤務先学科の大半の学生において就職活動は足並みが揃っていてその活動期間は相対的に短いという状況もあります。 |
最後に
私の勤務先でのミッションはあくまでも学生への研究指導や授業であり、就職活動支援はミッションではないと考えます。 しかし私は、自分の学生が適切な進路を選んで幸せに社会に出ることを心から願っていますし、早期に就職活動に成功して残りの学生生活を研究に打ち込んでもらうことが自分の利益にもつながります。 さらに、自分の学生に限らず、一人でも多くの学生が就職の良好なマッチングを実現することで、世の中が少しでもよくなると考えます。 このような思いから(本当に本当に些細なことですが)このようなページを書いている次第です。
このページを参考にして就職活動に成功した、という学生さんがもしいましたら、恩返しというのはおこがましいですが、情報を提供して頂ければ幸いです。その積み重ねが(本当に本当に小さいことかも知れませんが)世の中をよくすることにつながらないかと願います。
最後に私の身近な学生へのお願いです。 『こういう情報は公開しないで私たちだけに教えて欲しい』とは絶対に考えないで下さい。 自分だけが得をすればいいという発想では、世の中はよくならない、私はそう信じます。