Report Vol. 8

第8回:出張を終えての雑感

短い短い滞在出張を終えての雑感です…が、帰国してだいぶ経過してからの執筆になります。内容の大半は帰国して11か月後(2015年8月)に執筆したものです。※一部2017年5月に追記

1ヶ月でも海外訪問の意義はある

2008年のカリフォルニア大学訪問 の際にも全く同様なことを主張してきましたが、たとえ短期間であっても海外訪問によって成果を得ることは可能であると考えます。今回は以下の成果をあげてきました。

研究成果の面では、1ヶ月弱の大学滞在の間に複数のプロジェクトを起動し、帰国後3ヶ月以内に2本の論文を書きました。論文の査読結果には紆余曲折がありましたが、以下のような形で出版・発表されました。 結果として、1ヶ月の訪問を機に2本の国際的な雑誌論文を出版したことになり、効率のよい訪問であったと自負できるのではないかと思います。

1本目の成果は2015年8月に IEEE Computer Graphics and Applications という雑誌に採択され、2015年11月に掲載されました。さらに2016年10月に IEEE VIS 2016 という当該分野のトップ国際会議で登壇発表させていただく機会を得ました。
同時に進めた別のプロジェクトの論文には不運な経緯がありましたが、2017年にようやく、 Journal of Visual Languages and Computing という雑誌に2本目の論文として採択されました。

また1本目の成果は研究室学生に受け継がれてイギリスおよびオーストラリアの別の大学との新しい共同研究に派生し、さらに科研費採択研究課題の一部にも派生しています。2本目の成果は複数の研究室学生が利用すると同時に日本国内の複数の大学との共同研究に派生しています。このように、1ヶ月の訪問で得た研究開発成果はさまざまな形で研究室の将来につながっています。

学会運営の面では、このシドニー滞在時に参加してきた VINCIという国際会議を、2015年8月に東京で運営し、実行委員長を務めました。また日本国内で定期的に開催されている「湘南会議」に、オーストラリアの研究者陣とオーガナイザチームを組んで、2015年1月には Big Graph Drawing, 2016年2月には Immersive Analysis, 2016年8月には Dynamic Network Visual Analytics という3つの会議を企画しています。 今回のシドニー滞在は、自分の研究分野に関係が深い国際的な研究集会を日本に誘致するためのコネクションという意味でも、一定の成果があったと考えます。

日本の大学教員を取り巻く環境は厳しく、1年単位の長期的な海外滞在を得ることは簡単ではなくなっています。私としてはこれからも、短期的な滞在であっても行く意味がある、またシニアな立場になっても短期的な滞在で成果を出せる可能性がある、といったことを実証し続けていきたいと思っています。

もうひとつ示していきたい姿勢として、国際的な研究体制(論文共著体制)を維持したいという点があります。いま学術界では、学生と教授の2名だけで書かれた論文、単一の大学に属する著者だけで書かれた論文が激減し、代わりに国際的な共著関係を有する論文が急増しているそうです。シドニー大学への訪問中、研究者の友人関係ネットワークを私に見せた研究者が「ここの離れ小島が日本人たちだよ」と教えてくれて、「僕はそうならないためにシドニーに来たんじゃないか」と苦笑いしたことがあります。今回の共同研究体制を短期的なもので終わらせないように努力したいと考えます。

国が変われば研究も変わる

シドニー大学に滞在していて何度か会話にあがってきたのは「ここはアメリカとは違う」という話でした。自分自身もアメリカの大学2ヶ所に滞在した経験があったので、その会話内容と全く同じようなことを強く実感しました。

アメリカの情報学の分野では、優秀な研究業績をもって博士号をとれば高給で採用される機会が増えますし、大学に残らなくても研究職(または高い専門性を発揮する技術職)がたくさんあります。 そのかわり競争や審査の厳しさは常につきますし、有名な会議や雑誌にどのように論文を採択させるか、予算をどのように獲得するか、といった戦略に高い優先度が置かれることも多々あります。 戦略を優先するということは、必ずしも学生が研究課題を自由に選べるとは限らない、むしろ自らの懐に予算を得ることを優先して与えられた研究課題に従事する、ということも同時に意味します。
シドニーの大学にいると、それとは全く違う論理で研究が動いているのを感じます。学術的なトレンドに流されることなく、地道に真理を追求するような空気を強く感じます。世界の頂点を目指して激しい競争に飛び込むといった雰囲気も感じられません。腰を据えてじっくりと研究に取り組む雰囲気を感じます。かわりに、研究活動に多額が投資されるということもないため、オーストラリア国内の研究職のポストは決して潤沢ではなく、特に博士号を取得した学生は海外に職を探すことが多いようです。

このように、海外の大学の研究事情はそれぞれであることを理解することも、国際的に研究に携わる上で重要である、ということを改めて実感しました。
さて、日本はどうでしょうか。私はシドニーにいる間、日本は競争ばかりが激しくなって、そのわりに得られるものもたいして大きくない、まるで日本はアメリカとオーストラリアの悪いところどりに向かっているのではないか、と心配せずにはいられませんでした。考え過ぎであることを祈らざるを得ません。


他にも書きたいことがあったような気がするのですが、思い出したら追記いたします。


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