Report Vol. 7

第7回:シドニー大学での5週間

7ページ目にしてようやく、シドニー大学で具体的にどんな仕事をしてきたかを報告いたします。

今回の滞在中、シドニー大学への通勤期間はわずか23日間(4週間半)ですが、そのうちの 前半2週間で2つの研究課題に関するプログラムの試作を進めました。3時間くらいプログラムを作っては15分ほど議論し…ということを2週間繰り返しました。「思い立ったらすぐ作る」という時間の連続で、少しだけですが若い頃の自分の研究スタイルを思い出した気分になりました。
未発表の研究なので、開発したプログラムの画面コピーはボカした状態での掲載になることをお許し下さい。 この2件の研究に関する課題と、各々に関する応用事例とで、現段階で既に4本ぶんの論文のタネをまいたつもりです。もっとも、実際に論文を書いて発表できるようになるには、まだまだやることがたくさんあり、シドニー滞在中にそれが終わるとは思えません。残り課題をうまく日本に持ち帰り、うまく4本とも論文にできるといいのですが…。そしてこのプログラム、何人かの学生の研究にも使う予定ですし、企業等との共同研究にも使う可能性があります。これらも成功させたいと思います。



滞在2週目には、左の写真のような部屋で、1時間のセミナー講演の時間をもたせていただきました。 学部の教員や研究員を中心に20人くらいが集まりました。 こういう機会に教員や研究員がたくさん集まってもらえるということは、教員や研究者にとって職場として時間に余裕がある証であり、とてもうらやましく思います。
講演内容の質疑では、「計算量の見積もりの根拠を」「…なアルゴリズムとの比較は」といった理論的な内容に終始したのが印象的でした。 聞くところによると、この学部では戦略的に、ヨーロッパで理論重視型の教育を擁する大学から多くの教員や研究員を雇用しているとのこと。 私の勤務先も基礎重視の学科なので、シドニー大学の情報工学部から学べる点は多いのではないかと思いました。


ところで情報科学の業界ではShonan meetingといって、世界じゅうから有名な研究者を湘南の宿泊施設に集めて、4日間にわたってクローズドな議論をする企画があります。 私は来年(2015年)1月に開催する Big Graph Drawing: Metrics and Methods というタイトルのShonan meetingにて、オーガナイザ(企画者)を務めることになっています。 今回のオーガナイザは日本勤務・オーストラリア勤務・イタリア勤務の3人なのですが、この滞在中にオーストラリア勤務者と何度か打ち合わせを進めました。第一次招待者の大半から出欠が届いてその時点での出席予定人数が判明していたので、定員を満たすために誰を追加招待するか、当日はどのようなスケジュールで議論を進行するか、といったことを打合せました。 このような国際的な会合を企画するにあたり、企画者側も世界各地に散らばっている中で、この出張のおかげで顔を合わせて合理的に準備が進められました。


滞在3週目からは、2つの研究課題の各々について、論文の下書きとなる文書を作成し、共同研究者とその仕組や課題を共有しています。こんな状態で貼ってもしょうがないですが、書きかけの2本の論文のキャプチャ画像(をぼかしたもの)です。研究の完成度はまだまだですが、しかし3週目で実装内容をいったん文書にしているというのは順調ではないかと思います。

また、この週は8月最終週ということで、本務先ではお盆休みや大学院博士前期課程入試を終えて通常業務に戻る時期です。私も研究室学生とのSkypeによる個別議論や発表練習を再開しました。 私の不在の間にも、多くの学生が学会に論文を投稿していました。ちょうど私の不在に投稿時期が重なって不便をかけてしまって申し訳なかったです。

本務先の運営の仕事や、日本の学会運営の仕事も、多少は免除してもらっているとはいえ、メールで関わらざるを得ない面もあります。それ以外も含めて、滞在中もある程度の時間は日本での通常業務に割かなければなりません。

4週目にはもう少し本格的なデータを用いて、開発したソフトウェアの実験を始めました。 こういうソフトウェアの研究において、最初に使った小さなデータではうまく動いても、 現実社会に近い本格的なデータでは動かない、ということは頻繁にあります。 しかし、ここを乗り越えないと研究に説得力がありません。 よくある工程ではありますが、処理時間の重い部分を何度も繰り返さないように端折り、 データ中の重要な部分だけを抽出する処理を追加し、自分の手での操作速度にちょうどよく反応するように各所を調整して…、というような工夫を加えています。

どんなデータを対象としているか、ちょっとだけ紹介します。
1つ目は病原(腫瘍など)が写っている医療画像と、その病状に関する診断結果のデータです。 コンピュータに画像を読ませて、それがどれくらい重症であるか予測する、また似たような症状の患者を検索する、といった処理の正解率向上を目標にしています。
2つ目は人間関係のネットワーク、その他各種のネットワークで、特にその中の重要な人物・物品・場所がどのように重要であるかを理解しやすくすることを目標にしています。
どちらも情報科学の問題としては非常に有名なもので、既に多くの人が取り組んでいますが万能な解決策はなかなかなく、いろんな研究者が個別の問題に取り組んでいる状況です。

5週目(最後の3日間)には勤務先研究室の学生が合流しました。 私の勤務先学科では、 日本学生支援機構 の留学制度を利用して多くの学生を2,3ヶ月にわたって海外の研究室に派遣しています。 勤務先研究室でもシドニー大学に2名が滞在することになり、ちょうど私と入れ替わりに到着しました。 こちらの先生と学生の研究内容について共有して議論し、私の短い短い滞在も締めくくりです。

私自身の研究はまだ発展途上の段階にあり、とても中途半端なタイミングでの帰国となりました。帰国後もこの研究の続きを進め、前述のとおり最終的には4本の国際会議論文を書く構想(うち1本は帰国2週間後に投稿期限)をたてています。また、研究室学生や共同研究先企業がこれを利用するシナリオも、既にいくつか想定されています。どうやら到着時の目標通り、帰国後に続く研究内容になったのではないかと思います。

 

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