Report Vol. 1
第1回:3週間という短い滞在
私こと伊藤貴之は、2018年8月1日から8月20日まで、バンクーバー(カナダ)の
ブリティッシュコロンビア大学
への滞在出張に行かせていただいてます。
バンクーバーは東京から行くにはとても便利な場所にあります。直行便で9時間程度。欧米で最も短時間で訪問できる大都市のひとつです。
カナダは古くから移民の多い国で、特に西海岸はアジア人にもとても馴染みやすい風土があります。
最近では大学の国際化が強く望まれていますが、大学教員の多くは世間に言われるまでもなく、本来の職場を離れて海外の研究機関を訪問する機会を得ることに憧れています。 海外の大学では、この制度をサバティカルと呼び、多くの現場において半義務化しています。
では、職場を放置(?)してまで別の研究機関を訪問するサバティカルの意義は、どこにあるのでしょうか。 私なりの解釈では、サバティカルの意義は、
新しい共同研究体制を構築して研究成果をあげることで、
新しい知識や経験を身につけ、研究者として大きくなる
という点にあるのではないかと思っています。
最近では国際的な共同関係による学術論文の割合が急増しており、この点で完全に日本が出遅れていると聞きます。 研究者が海外に出向いて共同研究関係を構築することは、学術研究をリードする上で重要かつ有効な一手段であることは間違いありません。
しかし残念なことに、このような国際的背景とは全く裏腹に、日本では国立大学法人の運営費交付金は削減の一途をたどっており、結果として多くの大学では教員数を削っています。 私の勤務先でも、私と同じ学術分野を担当する教員は他になく、しかも助教やポスドクといった若手研究者もナシ、という状況です。 そのため、私が不在になると代わりの人がいない体制で仕事をしており、なかなか長期的にその場所を抜けるのが難しい状況にあります。
そこで長期的な海外滞在の代わりに、定期的に短期滞在して国際共同研究を組みたいというのが私の願望です。 それができる時期は夏休みのみで、しかも9月に博士号を取得する学生がいる年は博士論文審査があるので夏休みに大学を抜けることはできません。 2018年は短期滞在できる条件がそろったということで、学科長であるにもかかわらず3週間のブランクをいただいてバンクーバーに出張させていただいた次第です。 私のわがままを聞いてくださった学科教職員の皆様、私の不在という不便な状況を受け入れて下さった学生の皆様に深く感謝いたします。
私の海外滞在の目標は以下のような点にあります。
- 国際的に名の通った学会・雑誌での発表につながるような研究成果をあげる。
- 研究成果を日本に持ち帰って、獲得資金や共同研究の種にするとともに、学生の研究テーマへと再利用する。
- 大学や研究室の運営体制を学んで参考にする。
- 研究室学生の短期研究留学先候補としてのコネクションをつくる。
2008年9,10月にはカリフォルニア大学デービス校に 滞在し、 実質6週間という短い研究室滞在でしたが、滞在中の仕事を以下の形につなげることができました。
- 6週間の滞在の中で立案、実装、実験、執筆の全てを行い、滞在終了直前にIEEE主催の国際会議 Pacific Visualization に投稿し、帰国後に採録された。
※2018年現在、当該論文はPacific Visualizationの11年間の発表論文で被引用数第3位となっている。 - この研究の続きを実施するという名目で科研費に応募して採択され、私の6週間の滞在費よりも大きな間接費(研究者ではなく所属組織(私の場合お茶の水女子大学)に渡される費用)が支給された。結果として、額面の上では大学に対して十分なお返しができた。
- この6週間で実装されたソフトウェアは7名の学生の修士研究・博士研究に活用され、さらに拙研究室における企業共同研究にも活用された。
- 2018年までに4人の学生を派遣した。
2014年8,9月にはシドニー校に 滞在し、 実質5週間という短い研究室滞在でしたが、滞在中の仕事を以下の形につなげることができました。
- 5週間の滞在の中で2つのプロジェクトを始動し、その両者ともに論文が英文雑誌に掲載された。
※IEEE Computer Graphics and ApplicationsおよびJournal of Visual Languages and Computing. - この5週間で実装された2つのソフトウェアは5名の学生の修士研究・博士研究に活用され、さらに拙研究室における企業共同研究にも活用された。
- ソフトウェアの一方は講義科目の課題にも活用され、他方は今回の滞在研究にも活用された。
- 2018年までに15人の学生を派遣した。
今回の滞在はこれらよりもさらに短い13労働日の滞在ですが、同様に何らかの成果をあげられればと思います。
しかし一方で、これらの滞在報告をすると、そんなに成果成果と言っていたら研究留学の敷居が高くなってしまう、もっと成果にこだわらずに誰でも気軽に留学を志ざせるような雰囲気をつくるべきだ、という指摘を受けたことがあります。全ての人の立場に考慮して成果を報告するのは難しいものだと思いました。
今回の渡航費用は某企業様からの研究支援目的の寄付金(および多少の自費)によるものです。 この場を借りて深く感謝の意を申し上げます。
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