Report Vol. 4

第4回:短期滞在の意義を高めるために

私の研究室では2〜3か月の短期研究留学を強く推奨し、渡航学生1人あたり20〜25万円程度の支援を毎年申請しています。 2012〜2018年度の7年間に当研究室から短期研究留学に出た人数は以下のとおりです。


2〜3か月の短期留学で何が身になるのか、ということはよく質問されます。 留学したほうが留学しないよりも研究が進むのか?という質問が最も回答の難しい質問です。 それは研究課題や訪問先の状況に強く依存する話であって一概には回答できないからです。 それでも私は留学を推奨しています。主に以下の理由があげられます。

では短期留学・短期滞在を意義の高いものにするにはどうすればいいか?ということになりますが、 私は以下が重要であると考え、留学計画中の学生ともこれをベースにして打ち合わせをしています。


年を追うほどに難しくなるのが4.です。今回の場合、私は情報科学科の学科長を務めている年であり、 また9月に開催する国内研究会の委員長を務めており、さらに4月に実行委員長を務めた国際会議の残務がありました。 このような状況にあると日本の用事を事前に減らすように自分でコントロールするのは困難で、 どうしても一定量の雑務を海外滞在中に消化しないといけなくなります。 今回はいままでの海外出張で最も日本の雑務を減らしようがないタイミングでの出発となりました。 (もっとも、こんな状況でも3週間の不在を許してくれるだけでも、ありがたい環境かもしれませんが…。)

また今回の訪問先は宿泊先の選択が悩ましいところです。 バンクーバーは非常にホテル代が高く、ダウンタウンなどの中心街に長期間宿泊するのは予算面で現実的ではありません。 またダウンタウンからキャンパスにはバスや電車で40分以上かかるので、時間効率はあまりよくありません。 一方で大学キャンパス内には夕食や買い物の場所には恵まれておらず、人によっては不便や退屈を感じるでしょう。 その中間くらいの場所に住むのがバランスがいい選択かもしれませんが、ホテルはほとんどないに近く、AirBnBなどで宿を探す必要があります。 今回は自転車を借りられたことで、大学キャンパス内でも不便なく、かつ時間効率よく過ごせましたが、 こういう訪問先では人によって多種多様な選択があるかと思います。

学生の場合には、訪問先によって1.と2.が非常に重要になります。指導教員がサポートするべきであろうかと考えます。 また学生の場合には予算も限られているので、5.が悩ましいことになることが多いようです。

また特に学生が訪問する場合、受け入れ先が想定する研究レベルが千差万別だということを前提にする必要があるかと思います。 私が学生を送り出した経験からも といった非常に大きな差があって、事前に受け入れ先の考え方を理解しておかないと最終的には学生がツラい思いをする可能性があります。 できるだけそうならないように私も努力はしているつもりですが、毎年ケースバイケースの連続です。

短期滞在の限界

私が感じる最大の限界は「全く新しい研究分野に踏み出す動機にするのは難しい」という点です。 短期間で効率よく成果をあげるためには既に習熟した研究分野に従事するしかないと思いますし、受け入れ側も研究分野のマッチングがとれる形でしか短期滞在を受け入れてくれない場合が多いです。 言い換えれば、私のように短期滞在を数年ごとに繰り返している研究スタイルは、新しい研究分野に踏み込みにくくする研究スタイル、という可能性も否定できません。

もう一つの限界は「ほとんど共同研究だけで終わってしまう」という点です。 他のことをする時間はないと考えるべきです。 今回の滞在を例にすると、滞在期間中にSIGGRAPHというトップ国際会議が同じ市内で開催されていました。 普通に考えるとせっかくの渡航なのでトップ国際会議に参加してもいいところです。 しかし今回のような短期滞在の場合、たった13日の滞在を受け入れ先での研究に専念せず、 5日間も国際会議の参加のために留守にしていたのでは、受け入れ先に失礼にあたるかもしれません。 SIGGRAPHに参加する人が誰もいない滞在先研究室ですので、なおさらのことです。

 

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