Report Vol. 8

第8回:研究内容

3週間のバンクーバー滞在から帰国して1年以上が経過して、ようやくこのページを書くタイミングがやってきました。

現地で博士学生と一緒に始めたプロジェクトの研究内容は「階層構想をもつグラフの画面配置結果を評価するための新しい基準の確立」というものでした。 滞在中の3週間で立てた計画に沿って、帰国後は2週に1回のペースでSkype会議を重ね、手法の検討に努めました。主要な実装は筆頭著者である中国人博士学生が担当し、第二著者である伊藤は数式モデルに関するアイディアをいくつか述べたり、データを作って提供するなどしました。そして検討を重ねた結果、当該研究分野のトップ国際会議であるIEEE VISへの投稿を目指すことになりました。

IEEE VISの投稿期限は例年3月末です。一方で、筆頭著者は旧正月のために2月から3月初旬にかけて1カ月くらい帰省することになりました。その間はSkypeでの議論は一時停止となったのですが、筆頭著者はその間に大幅に実装を進め、さらに論文の初稿も書いていました。3月に入ってからはオンラインで共著者が何度も校正しあい、さらに筆頭著者の研究室では投稿前にメンバーに論文を読んでもらってゼミで質疑を交わす、という形で入念に推敲を進めました。

こうして2019年3月末にIEEE VISに投稿した論文は、残念ながら不採録となりました。研究の動機付け自体を否定する不採録理由が査読コメントに多く見られました。我々は不採録理由に納得することができず、単に査読者との巡りあわせが悪かったのでは…という議論になりました。そこで査読コメントを反映する方向で原稿を修正しつつも、研究自体の方向性は大きく変えることなく、IEEE Pacific Visualizationという準トップ国際会議に再投稿することになりました。

Pacific Visualizationの投稿期限は2019年10月2日でした。しかしここでスケジュールの不整合が生じます。筆頭著者は別のプロジェクトのために9月中旬まで本件の対応ができない状況だったのに対して、僕は9月20日から国際会議での招待講演、9月25日から国内学会のプログラム委員長、10月2日から国際会議の実行委員長、という立て続けの大役が待っていました。そこで8月に共著者間でSkype会議を開き、僕は数式モデルの改正案と追加データの提供を9月中旬までに済ませ、あとは筆頭著者にまかせる…という段取りとなりました。結局僕は材料を提供しただけで、投稿期限直前に筆頭著者が書き上げた最終原稿をチェックする間もないまま、投稿を迎えました。

投稿の結果、めでたく当論文は国際会議IEEE Pacific Visualizationに採択されました。採択通知が届いたのは2020年1月13日でした。しかも高得点での採択につき、当該分野のトップジャーナルであるIEEE Transactions on Visualization and Computer Graphics (TVCG)に掲載という形での採択となりました。3週間の訪問から1年以上が経過しましたが、無事に研究内容を出版することができて何よりです。

ここまでの議論の過程で僕が出してきた数式モデルやテストケースデータも、最終的にはあまり論文に反映されていませんし、原稿自体もほとんど筆頭著者が書き上げました。結果的には共著者を名乗るには多少おこがましい状況となりましたが、振り返れば自分は本研究を採択に導くまでの踏み台をたくさん提供する役割だったのではとも思います。

ここまでの経緯を図示すると以下の通りになります。

論文のタイトルと共著者陣は以下の通りです。

Zipeng Liu, Takayuki Itoh, Jessica Dawson, Tamara Munzner
Combining Sprawl and Clutter as Area-aware Graph Readability Metrics
ご興味のある方は出版時に検索して頂ければ幸いです。

 

2008年のカリフォルニア大学デービス校滞在 では、6週間の滞在で研究プロジェクト開始からIEEE主催の国際会議への投稿までを完了し、100程度の被引用数(2019年現在)を有する国際会議論文としての発表となりました。

2014年のカリフォルニア大学デービス校滞在 では、5週間の滞在で2つのプロジェクトを同時に立ち上げ、帰国後の投稿によって2本のジャーナル論文としての出版となりました。

今回はそれに比べると、現地の博士学生の研究を支援する形でのプロジェクト起動、という全く異なるタイプの訪問となりました。一方で、世界の一流教授による研究指導の体験、また世界的な博士学生との協業によるスピード感の体験、といういままでと違う体験ができました。この体験を日本の研究者コミュニティに語り継ぐとともに、自分の研究指導の参考として役立てていきたいと考える次第です。

 

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