Report Vol. 5

第5回:シドニー大学とは

国際会議の参加を終え、土日を終え、8月11日からシドニー大学に勤務して本格的に研究を開始しました。
下の写真は、私が勤務するシドニー大学School of Information technologyの建物です。 大きな黄色い丸がとてもキャッチーに見えて、あまり大学っぽくない建物です。 そして私はこの建物にて、ありがたくも個室を使わせていただけることになりました。



下の地図はシドニー大学近辺の地図で、薄茶色に塗られた領域が大学の敷地となっています。
私が通勤するビルは地図中の(1)に位置しており、ほとんどキャンパスの端っこに位置します。 道路をはさんだ反対側の(2)には美しい公園があります。この公園を横切って大通り (Paramatta Road) をわたった先にあるフードコートに、しばしば昼食に行っています。地図中の(3)はクアドラングルという歴史的に有名な建物と中庭で、多くの観光客がこれを目当てにわざわざキャンパスを訪れているようです。ここに向かう大通りには平日なのに多くの露店が構えてあって、ある意味で大学らしくない雰囲気を出しています。クアドラングルの裏の(4)には落書き放題(?)の名物トンネルがあり、またカフェテリアや売店など学生がよく集まるエリアとなっています。




左の写真は、昼食によく行ったフードコードが入っているショッピングセンターの外観です。 また滞在先学部では、金曜の夕方に研究者が集まってパブに立ち寄る習慣がありました。 右の写真はそのパブの入り口です。

 

シドニー大学には17の学部があるそうです。私の通学先は「Engineering and Information Technologies」という組織に属します。直訳すると「工学部・情報工学部」ということになり、実際にこの大学では情報工学はその他の理学や工学からほぼ独立しているように見えます。
私が関わった海外の他の大学でも、理学部・工学部と同じくらいの位置づけで情報学部が存在している例がよくあります。 一方で日本では、「社会情報学部」「経営情報学部」「メディア情報学部」といった学際的な(というか異分野混合型の)情報系学部は増えていますが、そうではない理工系の学問として独立した情報系「学部」を有する大学よりも、依然として理学部や工学部の一部としての情報系「学科」を有する大学のほうが多いのでは…という気がします。帰国したら調べたいと思います。
まったくの邪推ですが、私が経験した海外の大学の組織構造を考えると、おそらく日本よりも海外諸国のほうが、理工系の学問として情報を学ぶ学生の比率は高いのではないか…という気がします。

昨今よく、日本の製造業はハードウェア偏重でソフトウェア技術者が足りない(だからAppleのような企業が日本で生まれないのだ)という評論をよく見ますし、また日本では文系学部からSE職に就く人が多いという事実に海外の知り合いの先生方は非常に驚かれます。 私の少ない海外経験だけからモノを申すのはおこがましいのですが、どうも海外の大学を訪問するたびに、日本では(学際的ではない純粋な)理工系の学問として情報科学/情報工学を学ぶ人が学部入学の定員の時点ですでに少なすぎるのでは…という感想を持たずにはいられません。

 

地元出身の情報工学部の学生は、ほとんどが学部で就職するそうです。 オーストラリアのIT業界では、専門性の高い研究開発系の職業が少ないそうで、地元で就職するにはSEやコンサルタントなどに就くほうが多いようです。 優秀な地元学生に大学院に残ってもらえないのは痛い、という話を聞きました。

大学院は2種類にわかれていて、ひとつは研究者になることを前提とした5年一貫教育の博士課程、もうひとつは研究をせずにコースワークと呼ばれる実習中心の2年教育の修士課程だそうです。博士課程は圧倒的に海外からの留学生が多いそうで、やはり英語圏の国は海外から学生を集めるのに圧倒的に有利なことがわかりますが、いかんせん自国からの進学者が少ないので学生集めは簡単ではないそうです。また修士課程はどちらかといえば、別の分野から移ってきて2年間で手に職をつけて就職するという人が多く、大学院といっても初歩的な教育もある程度必要そうに思われます。

話を聞いていると、英語圏ということもあって他国からの学生集めなどで有利な面もあるものの、苦労している面も多数あるようです。 よく日本の研究教育者から 「日本の研究教育環境は悪い」という嘆きを聞きますが、かといって他国の環境もユートピアというわけでもないのは滞在してみると非常によく実感します。

 

私は通学先で2つの研究課題に携わっていますが、初日からいろんな関係者と議論の時間を持たせて頂き、次々とワークアイテムが洗い出されました。2ページ前に書いてあることと矛盾しているかもしれませんが、創薬化学の専門家や医療画像の専門家と、データ共有などに関する具体的な話を進め、具体的にどのように研究成果を活用するかを検討しています。この進展については別のページで述べます。

シドニー大学には到着の1ヶ月前に身分証明などの書類を提出していたのですが、到着時には入館用キーやインターネット接続認証のためのIDがまだ発行されておらず、それどころか私が署名するための書類さえできていませんでした。 また私の勤務先大学ではシドニー大学との協定を結ぼうとしていますが、その処理も長い間にわたって停止していました。 話を聞く限りではシドニー大学の事務の人員が本当に足りていないようです。 それに比べると、私の勤務先大学の事務部門は人員が少ないにもかかわらず実に親身な対応をしてくださり、本当に頭が下がる重いです。

一方である教員は「大学には研究しかできない(=事務処理能力がない、常識に欠けるなど)教員が多くて運営上とても困る」みたいなことを言っていたらしいです。 大学運営が大変なのはどこでも同じようですね…。

 

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